また、「発達障害者」は、特性に応じた支援を受けることで十分に力を発揮できる可能性があるにもかかわらず、従来はその支援体制が不十分でした。
このような背景を踏まえ、発達障害について社会全体で理解して支援を行っていくために、平成17年4月から、「発達障害者支援法」が施行されています。
現在、「発達障害」という言葉は、社会的に徐々に認知されつつあります。しかしながら、「発達障害は甘えだ」といった誤解は根強く、世間の発達障害のイメージと実態との間には、まだまだギャップがあると感じています。
この記事では、発達障害に関する基本的な知識と、発達障害者へのサポートの例を記載しています。
執筆したのは、障害福祉専門の行政書士です。
発達障害の概要
発達障害とは
発達障害とは、発達障害者支援法において、「自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害その他これに類する脳機能の障害であってその症状が通常低年齢において発現するものとして政令で定めるもの」と定義されています。
発達障害の原因は?
発達障害の原因は十分に解明されていませんが、親の育て方や本人の努力不足ではなく、生まれつきの脳機能障害が原因であるとされています。
物事の感じ方やとらえ方が異なっているため、とても得意なことがある反面、ちょっとしたことがとても苦手という偏りがあります。
そのため、自分の特徴が周りに受け入れられずに困難を感じたり、周囲の環境に適応することに苦労したりしています。
発達障害のタイプ
ここでは、発達障害の代表的な3つのタイプ(自閉スペクトラム症、注意欠陥多動性障害、学習障害)を紹介します。人によっては3つの特徴が重なることや、年齢や環境によって目立つ特徴が変わることがあります。
自閉スペクトラム症(ASD)
これまで、自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー症候群などの色々な名称で呼ばれていましたが、自閉スペクトラム症としてまとめて表現されるようになりました。
自閉スペクトラム症は遺伝的な要因が複雑に関与して起こる生まれつきの脳機能障害で、自閉スペクトラム症の人は人口の1%に及んでいるとも言われています。
人が五感で感じた刺激は、神経をとおして脳に送られ、刺激を情報として受け取ります。このとき、刺激が脳に到達するまでに何らかの別の神経の働きがあれば、他の人と同じものを見聞きしたとしても、その人にとっては別の情報として脳に伝わります。そうすると、その人が起こす反応(運動)は当然異なるものになります。
例えば、同じ音を聞いても、心地よい音として受け入れる人と、不快な音として耳をふさぐ人という違いが生じます。
自閉症スペクトラム症の人は、過去の経験や本人の嗜好で耳をふさいでいるのではなく、脳機能の障害により、音自体が別の情報として脳に伝わることで不快と感じているのです。
特性の例
- ことばが遅れる
- 聴力に問題がないのに、話しかけられても気づかないことがある
- 表情や口調、身振りなどから気持ちを読み取ることが苦手
- 比喩や冗談が伝わりにくい 等
②人との関わりが苦手(社会性)
- 人の気持ちが分かりにくい
- 年齢相応の友人関係が築きにくい
- 集団行動が苦手
- 場の雰囲気が読めない 等
③興味や関心が限定されている(こだわり)
聴覚、視覚、触覚、味覚、嗅覚、痛覚、温度覚などの感覚が過敏であったり低下したりしていることがあります。
- くるくる回ったりぴょんぴょん跳ねたりすることを繰り返す
- いつもの場所や時間が変わると混乱する
- 電車や自動車など特定の物にしか興味を示さない
- ルールにこだわり、融通が利きにくい 等
④感覚の過敏さや鈍感さ
手や身体に触れる感覚、耳で聞く感覚、食べ物を味わう感覚、嗅覚などがとても鋭かったり鈍かったりするため、人と違った反応を示します。
- 特定の音にイライラしたりパニックになったりする
- 人に触られるのを嫌がる
- 偏食が激しい
- 転んでも泣かない
- 疲れやすい 等
接し方の例
- 特性を理解し、本人の目線に立って、何に困っているのかを考えましょう。
- 相手にとって「安心できる」「わかりやすい」支援を工夫しましょう。例えば、あらかじめスケジュールを表で知らせたり、予定変更がある場合は、急にではなく、事前にスケジュールを知らせたりしましょう。
- 言葉がけは、ゆっくり丁寧にしましょう。言葉だけではなく、文字やイラストなど、目で見る情報も取り入れるとわかりやすくなります。
- 言われたことを言葉どおりに取ってしまうことがありますので、比喩や遠回しな言い方ではなく、具体的で簡潔な話し方をしましょう。
- 集団の場面では、クールダウンできる場所を用意しましょう。
注意欠陥多動性障害(ADHD)
ADHDは、「不注意」と「多動・衝動性」を主な特徴とする発達障害の一つです。ADHDの人の割合は、学齢期の小児の3~7%程度と考えられています。
ADHDを持つ子どもの脳では、ドーパミンという物質の機能障害が想定され、遺伝的要因も関連していると考えられています。
自閉スペクトラム症(ASD)と異なるのは、ADHDの人の脳に到達した情報は、一般の人と違いはないと考えられている点です。脳に情報が到達するまでは同じでも、その情報に対してどのような行動をとるかの判断の課程に違いがあるのではないかといわれています。
つまり、自閉スペクトラム症(ASD)の人は情報のインプットの仕方に違いがあり、ADHDの人はアウトプットの仕方に違いがあるということになります。
特性の例
注意や集中がうまくできない状態です。集中すべき時に集中することができず、また計画的な行動が苦手です。逆に、好きなことに集中している時は、周囲に全く注意を向けられないなどの傾向があります。
- 集中できず、すぐに気が逸れる
- 間違いややり残しなどのミスが多い
- 片付けが苦手、忘れ物や物をなくすことが多い
- 日々の活動を忘れてしまう
- 決められた時間を守れない
- みんなが座っている時に席を離れてしまう
- おしゃべりを我慢できず、絶え間なく話す
- キョロキョロ、もじもじして落ち着かない
- 相手の話をよく聞かずに話し始める
- 順番を待てずに割り込む
- 会話がたびたび横道に逸れる
- 結果を考えずに行動してしまう
- 興味がある物にすぐ触ったりする
接し方の例
- 言葉での指示は単純明快にしましょう。場合によっては、イラストなどの視覚情報を用いて伝えましょう。
- 注意を引いてから指示を出し、大事なことは繰り返し伝えましょう。
- やって欲しい行動は、紙に書いて目の付くところに貼っておきましょう。
- スケジュール表などを活用し、行動に見通しや計画性を持てるようにしましょう。
- 気持ちを切り替えられるキーワード、クールダウンできる方法や場所を決めておきましょう。
- 動くことを無理に押さえようとせず、小休止やストレッチ体操などを取り入れましょう。
- 集中が持続するよう、時間配分や活動の量、種類を調整しましょう。
学習障害(LD)
学習障害(LD)は、知的障害はなく、話し言葉に明らかな遅れがないのに、読み書きや計算などに著しい困難を示すタイプの発達障害であり、読字の障害を伴うタイプ、書字表出の障害を伴うタイプ、算数の障害を伴うタイプの3つがあります。
学習障害(LD)の人は、視力、聴力などの感覚は正常であるのに、情報が感覚器から異なったものとして脳に到達するため、「視覚情報、聴覚情報、空間認知情報」のいずれかが、通常と異なった形で伝達されている状態にあります。そのため、学習障害(LD)の人は、学習時の困難だけでなく、日常生活の様々な場面で困難に直面することがあります。例えば、音楽が流れている環境や他人の話声の中で自分に向けて話しかけられた声を聞き分けられない、案内標識が読みにくい、前後・左右・遠近などの位置関係の把握が難しい、といったことがあります。
特性の例
①読む(読字障害)
文字が読めない、意味を理解できないなど、文字学習が遅れます。また、文字を読めたとしても、すらすら読めない、飛ばし読みをしたり適当読みをしたりするため正確さがない、文章のどこを読んでいるのか分からなくなる、といったことがあります。
②書く(書字障害)
読めないから書けない場合もありますし、読めても書けない場合もあります。漢字の偏やつくりが反対だったり、独特の筆順で書いたり、漢字の細かい部分を書き間違えたりします。書かれた文字を書き写すことに時間がかかることがあります。
③計算する(算数障害)
数の大小比較や読み書きができなかったり、簡単な計算でも暗算ができなかったりします。日常では買い物のおつりがわからないこともあります。
接し方の例
- 「どうしてできないの」と責めず、なぜできないかを一緒に考えましょう。
- 具体的な指示を出し、教える時はゆっくり丁寧に伝えましょう。
- 教えたいことをいくつかのステップに分けて順に提示すると、理解がしやすい場合があります。
- メモを取ることが苦手な場合は、ボイスレコーダーを活用するなどの工夫が考えられます。
- 視覚的な形の把握や記憶が難しい場合は、「森は木が3つ」など、言葉で覚える工夫もあります。
その他の発達障害
上述したタイプの他にも、トゥレット症候群のように、まばたき、顔しかめ、首振りのような運動性チック症状や、咳払い、鼻すすり、叫び声のような音声チックを主症状とするタイプのものも、発達障害に含まれています。
発達障害者をサポートする際の留意点
障害ごとの特徴が重なり合っている場合も多いため、障害の種類を明確に分けて診断することはとても難しいとされています。また、年齢や環境により目立つ症状が違ってくるので、診断された時期により診断名が異なることもあります。
発達障害者の中には、本人任せではなく、「きちんと教えてもらうこと」「きちんと止めてもらうこと」が必要なこともあります。他方で、たとえ有名な訓練方法を取り入れたとしても、本人の困りごとをきちんと把握しないままでは、逆効果になりかねません。
支援者の中には、「自分のノウハウが、新しく支援対象になった発達障害者の支援にもそのまま当てはまるはずだ」という思いこみをもってしまう人もいます。しかし、ノウハウのどの部分が目の前の発達障害者にとって適切で、どの部分が不適当なのか改めて点検する必要があります。
大事なことは、診断名やこれまでのやり方にとらわれず、「その人自身」に目を向け、その人ができること・苦手なことを把握し、それに合った支援を行うことです。
参考文献等
- 厚生労働省『発達障害の理解のために』厚生労働省ホームページ
- 厚生労働省『ADHD(注意欠如・多動症)の診断と治療』厚生労働省ホームページ
- 厚生労働省『ASD(自閉スペクトラム症、アスペルガー症候群)について』厚生労働省ホームページ
- 古荘純一『発達障害サポート入門 幼児から社会人まで』
- 宮城県『発達障害とは』宮城県ホームページ
- 文部科学省『発達障害について』文部科学省ホームページ